原敬と俳句　７


   ４７　 「手帳俳句」と「句帖」との関連一覧


はじめに

　本稿は、「原敬と黄檗」に「手帳日記」とし て掲載されている俳句を、原敬関係文書（第１０巻　Ｐ５７０～）所収の「句帖および日記下書き」と参照しながら、「句帖」との関連をまとめたものである。

１ 　原敬の俳句についての資料は、次の通りである。

　（１）　「横長黒皮手帳」現物
　　　　　　見ることは出来ない。

　（２）　「句帖および日記下書き」（「原敬関係文書」第１０巻　Ｐ５７０～）
　　　　　　「横長黒皮手帳」を活字化したものだが、後半部分 がカットされている。

　（３）　「手帳日記」（「原敬と黄檗」　永田泰嶺　黄檗宗大本山万福寺）
　　　　　　一部毛筆縦 書きの写真版（実物大ではなく幾分小さめ）で、俳句については全文があると思われる。
　　　　　　これに記 載されている俳句を本稿では、「手帳俳句」と呼称することにする。

　（４）　「句帖」原本
　　　　　　毛筆縦書きのもの で、復刻版がある。

　（５）　「句帖」
　　　　　　活字化したものが、「原敬日記」（第６巻）に所収されている。
　　　　　　これが最も一般に知られてい る

　（６）　「筑紫紀行」と「越 の塵」
　　　　　　原本は見ることができないが、を活字化したものが、「原敬日記」（第６巻）に所収されている。
　　　　　

２　資料について

（１）　「手帳日記」（「原敬と黄檗」　永田泰嶺　黄檗宗大本山万福 寺Ｓ６１．９発行）

　　　① はじめに、「原敬の俳句について」（永田泰嶺）という文があり、その後に、原 文の写真版と活字に起した俳句がある。
　　　　　写真版の大きさは、実物大（横１３．４cm、縦８．５cm）ではなく幾分小さめである。

　　　② 「原敬と黄檗」の「原敬伝の空白を埋めるもの」（松尾尊兊）に、「大慈会理事長原利和氏の提供により、俳人泰嶺和尚が始めて　　　　　公表される」とある。ここで も、「小手帳に日々鉛筆で書きとめたもの」と、記述されている。

　　　③ しかし、この写真には、明らかに毛筆縦書きしたと思われる句もある。書き手は、原敬と思われる。

　　　④ 写真の２２枚目に、横書きで、「１５０　米川権四郎渡し　小山田碑諸費1/9」と書いている。これは、原敬が幼時の漢学の先生小　　　　　山田佐七郎の墓石再建に当 たって、当時の岩手県田山村長米川に費用を渡したということを示している。　
　　　　　このことは、原敬自身の事である。なお、この記述 は、「関係文書」では省略されている。

　　　⑤ 日記に当たる部分がすべて削除されている。手帳を元に、俳句関係のみを書いてあるもので、推敲した形跡が残っている。

　　　⑥ 句帖及び関係文書にある、「煙走ル春の山路の汽車の旅」が欠落している。写真の４枚目が最後まで書かれており、５枚目も最
　　　　　初から書かれているので、この句はこの時点では存在していなかったと思われる。
　　　⑦ 本来は前半部分（筑紫紀行）にあるべき、「小雨ふるひれふり山の春寂し」が、後半部分に混じっている。この句もこの時点では
　　　　　存在していなかったと思われる。

　　　⑧ 原敬は、この写真版からさらに選択して、師匠に見せその添削を元にして「句帖」を作成したものと思われる。なお、「句帖」（毛　
　　　　　筆書き）でも推敲している。

（２） 「句帖および日記下書き」（原敬関係文書第１０巻Ｐ５７０～）
　
　　　① 表題の下に、「横長黒皮手帳（よこ１３．５センチ、たて８。５センチ）に鉛筆書き。大正５年。」とある。

　　　② 末尾に、「他に短歌、“折取りて母の御墓に手向けせん父のかたみの花の一もと”や、制作時不明の俳句三十余句を記すが、す
　　　　　べて省略する」と書いてあり後半 部分が削除されている。

　　　③ １２日分が欠落している。

　　　④　②と③の欠落部分は、「手帳日記」（「原敬と黄 檗」）によって補うことが出来た。

　　　⑤　「手帳日記」（写真版）にはない句が、１句（０３３）掲載されている。

（３） 「句帖」

　　　①　原敬が、大正年ころ編纂したものである。

　　　②　縦書き罫紙に毛筆で記入しており、推敲の跡があ る。

　　　③ これを整理したものが、「原敬日記」第６巻（福村出版）に「句帖」として掲載され ている。

１　「手帳日記」の記載は、黒字で表記してある。なお、句の 番号は、掲載順につけた。　 　２　「句帖」の句は、青字で表記してある。なお、番号は句帖の掲載順につけてある。 　３ 　日時・所は、「句帖」及び「紀行」を参照して編者が推測したものである。 　４　前半部分の句（「筑紫紀行」に関する句）については、 タイトルがついているが、　後半部分については何も書いていな 　　　い。 　５　後半部分は、大正５年１０月 以降に書いたものであろう。 　６　赤字の表記は、二本線で抹消されている句である。

手 帳俳句 の番号	上段　　　手帳俳句 　　　　下段　　　関連する「句帖」の俳句	と　き	と　こ　ろ
００１	東京出発       １５８　旅立や都の花を見のこして	大正５年４月８日	東京駅
００２	箱根山中 　　　　　富士低し箱根の奥の山の上     １６０　富士低く見ゆる峠や旅うらら	大正５年４月８日	車中・箱根
００３	天気好晴　 　　　　　麦青く桃と菜種の旅路かな     １５９　麦青く桃と桜の旅路かな	大正５年４月８日	車中
００４	桃花盛り　　 　　　　　桃の下弁当開く家族づれ   １６１　桃林に弁当開らく家族かな	大正５年４月８日	車中
００５	花時に旅する人や眼の疲れ	大正５年４月８日	車中
００６	暖かき観音像や岩の上	大正５年４月８日	車中
００７	名古屋 　　　　　霞中名古屋の城の鯱光る     １６２　霞引く名古屋の城や鯱光る	大正５年４月８日	車中・名古屋
００８	霞中とは云へ光る名古屋城	大正５年４月８日	車中・名古屋
００９ 　　抹消	岐　阜        　 香魚上る長良の川や水清し	大正５年４月８日	車中・長良川
０１０	若鮎の昇る長良や水清し       １６３　若鮎の上る長良や水清し	大正５年４月８日	車中・長良川
０１１	近江路 　　　　　暮遅し瀬田石山の眺かな      １６４　暮遅き瀬田石山の夕日かな	大正５年４月８日	車中・瀬田
０１２	九日朝山口県宇部にて　 　　　　　春霞煙に染まんうべの里     １６５　煤煙や工場かすむうべの里	大正５年４月９日	車中・宇部
０１３	関門海峡 　　　　　北南二州かすめり舟の上   １６６　北南両岸かすめむ舟の上	大正５年４月９日	関門海峡
０１４	筑豊途上　 　　　　　風光る旅路に遇ふは炭車 　 １６７　石炭車続く旅路や風光る	大正５年４月９日	車中・門司筑豊間
０１５	宇佐郡長洲柳ヶ浦ニ駅相近シ地方争の結果 　　　　　花笑ふ長洲の先の柳浦          １６８　両岸の花に明けたる汽笛かな	大正５年４月９日	車中・ 長洲・柳ケ瀬間
０１６	別府大分 　　　　　とりまいて装ふ春の豊後湾	大正５年４月９日	車中・豊後湾
０１７	別府大分より海岸　　　 　　　　　 　　青海苔は磯一面の飾りかな 　 １６９－１　青海苔は磯一面のながめかな  　１６９－２　汐引て青海苔匂ふ磯辺かな	大正５年４月９日	別府海岸
０１８	別府温泉 　　　　　湯に入りて初めて春の風情かな   １７０　湯に入りてひとへに春の心かな	大正５年４月９日	別府温泉
０１９	今朝見れハ山影薄し春の雨   １７１　山煙る旅の晨や春の雨	大正５年４月１０日	別府温泉
０２０	春日浦 　　　　　花くもり舞子に勝る春日浦	大正５年４月１０日	大分・春日浦
０２１	春風に松も踊るや春日浦 　 １７２　松風の音おりおりの雲雀かな	大正５年４月１０日	大分・春日浦
０２２	別府の暮 　　　　　風なきて霞にくるる別府町        １７３　風なぎて霞にくるる屋並かな	大正５年４月１０日	別府
０２３	別府発大牟田ニ赴ク　 　　　　　佐賀の関彼方と云へり霞中      １７４　指示す霞の中や佐賀の関	大正５年４月１１日	大分・佐賀関
０２４	立石金山 　　　　　立石や黄金の花の咲き初め   １７５　黄金掘る山の麓や草萌る	大正５年４月１１日	大分・立石金山
０２５	木葉にて 　　　　　木葉町官軍の草花さかり          １７８　官軍の墓樹の伸びや花ざかり	大正５年４月１２日	熊本・玉東町木葉
０２６ 　　抹消	戦記（木葉植木道） 　　　　老人の戦記話や春の旅	大正５年４月１２日	熊本・玉東町木葉
０２７	春の旅老人語る古戦場    １７７　村人の戦争語る日永かな	大正５年４月１２日	熊本・玉東町木葉
０２８	肥後ヨリ薩摩ニ入ル　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　山多き稀にハ花の眺か な   １８０　一本の花吹雪けり雑木山	大正５年４月１２日	熊本鹿児島県境
０２９	矢嶽にて 　　　　やたけにははやれと春の牛車 　１７９　登りにも見たる花なり降り道	大正５年４月１２日	熊本・矢岳町
０３０	桐野等贈位 　　　　春雨や日頃のほこり洗ひけり    　１８５　春雨に日頃の埃洗ひけり	大正５年４月１３日	鹿児島

０３１	西郷等の跡 　　　　英雄の夢のたとりや春の雨      １８１　香煙に傘の雫や春の雨	大正５年４月１３日	鹿児島
０３２	桜　島 　　　　誰がためにもゆるや春の桜島 　    １８２　春雨や一と際煙る桜島	大正５年４月１３日	鹿児島・桜島
０３３	薩摩湾　 　　　　春雨の小やみや雲の薩摩湾 　     １８４　春雨の小やみや雲の薩摩潟	大正５年４月１３日	鹿児島
０３４	磯御殿　 　　　　鶯の声たかだかと磯御殿  　 １８３　鶯や声高々と木隠れに	大正５年４月１３日	鹿児島
０３５	車中東上ノ列車ヲ望ム 　　　　煙走る青き山路の急ぎ旅 　　　　「原敬関係文書」には 　　　　　煙走ル春の山路の汽車の旅 　　　　とある    １８６　汽車の煙走る麓や若みどり	大正５年４月１４日	鹿児島・吉松
０３６	日向山中 　　　　山里ハ鶏鳴く声の日長かな        １８７　日向路や鶏鳴きて里霞む	大正５年４月１４日	宮崎

０３７	谷頭　 　　　　開墾地花大根の眺かな      １８８―１　畑や畑大根の開墾地 　 １８８－２　開墾の畑遠近や花大根	大正５年４月１４日	宮崎
０３８	人馬疲る春の山路や雨の中    １８９　人馬疲る春の山路や雨の旅	大正５年４月１４日	宮崎
０３９	雨天 　　　　春の雨三日続きの旅路かな	大正５年４月１５日	宮崎
０４０	宮崎神宮 　　　　大雨や社頭の松の若緑 　１９０　大雨に洗ふ社頭や若みどり	大正５年４月１５日	宮崎
０４１	雨中宿 　　　　たれ込めて雨に暮れけり春の宿    １９２　たれ込めて宿にくれけり春の雨	大正５年４月１５日	宮崎
０４２	雨降って地固まるや菜種時     １９１－１　雨降って地固まるや花菜時　 　　　　　　とあり抹消、その下に 　　１９１－２　興湧きて座談となるや春の宵 　　　　　　　　　　この句は前日１５日	大正５年４月１６日	宮崎

０４３	途中ひばりを聞き 　　　　晴れわたる空にひばりの野道かな          １９３　晴れわたる空に雲雀の野道かな	大正５年４月１６日	宮崎・青井嶽間
０４４	田野七野 　　　　　　田野七野野ハ一面の蓬草     １９４－１　田野七野野は一面の蓮華草 　１９４－２　 田野七野過ぐる五形花の日和かな	大正５年４月１６日	宮崎
０４５	霧島山 　　　　　　霧島の嶺隠す春の雲	大正５年４月１６日	宮崎
０４６－１	人吉繊月城下繊月楼球磨川のほとり 　　　　　球磨川の水にくたくる春の月     １９５　水に漂ふ灯おぼろや春の月	大正５年４月１６日	熊本
０４６－２	「原敬と黄檗」では、「宿るや」をとり 　　　　球磨川の水に宿るや春の月 　としている。	大正５年４月１６日
０４７	朝鮮野田大塊より「鎮撃の山声に動くやほととぎす」　　　との電報より返に 　　　　山里ハ今鶯の初たより         　野田大塊、朝鮮より「鎮西の山声に動くや杜鵑」と電信　　　し来りたれば、左の返電を送りぬ 　１９７　山里は今鶯の初だより	大正５年４月１６日	熊本・林温泉

０４８ 　　抹消	鷺欄干ニ止る　　 　　　　欄干に白鷺眠る山家かな	大正５年４月１７日	熊本・林温泉
０４９ 　　抹消	白鷺の欄干に眠る山家かな	大正５年４月１７日	熊本・林温泉
０５０	白鷺の縁に糞する山家かな      １９８　白鷺の縁に糞する山家かな	大正５年４月１７日	熊本・林温泉
０５１	林温泉 　　　　　霊泉に浴しつ聞くや雉子の声	大正５年４月１６日	熊本・林温泉
０５２	夜かじか 　　　　夜静か枕辺になくかじか哉	大正５年４月１６日	熊本・林温泉
０５３	かじか鳴更けゆく夜　 　　　　　かじか聞く球磨川ほとり旅寝哉 　       １９６　更け行くや河鹿の声の耳に澄む	大正５年４月１６日	熊本・林温泉

０５４	家　鴨 　　　　　春の宿あらしもがなの家鴨鳴き     １９９　鶯や宿の家鴨のさわがしき	大正５年４月１７日	熊本・林温泉
０５５	若　鮎 　　　　　若鮎に誇る主の上気嫌	大正５年４月１７日	熊本・林温泉
０５６	若鮎を食はして誇るや禁猟期     ２００　若鮎の香も名所の誇りかな	大正５年４月１７日	熊本・林温泉
０５７ 　　抹消	熊本城 　　　　古戦場落花の中の物語	大正５年４月１７日	熊本・熊本城
０５８	花の下戦争語る若士官     ２０１　花のもと戦略語る士官かな	大正５年４月１７日	熊本・熊本城
０５９	若鮎に誇るも今ハ禁漁期	大正５年４月１７日	熊本・林温泉

０６０	花の下戦ばなしの若士官	大正５年４月１７日	熊本・熊本城
０６１	花の下戦語りの若士官	大正５年４月１７日	熊本・熊本城
０６２	水前寺 　　　　　池の底に鮎の群ののぞかるる        ２０４　欄に寄れば小鮎の群ののぞかるゝ	大正５年４月１８日	熊本・水前寺公園
０６３	幽斎の茶室 　　　　　蒼蠅の居らぬ里なり水前寺     ２０５　蠅の居ぬ座敷に肱の枕かな	大正５年４月１８日	熊本・水前寺
０６４	水前寺道 　　　　　雲雀鳴く野道を過きてや水前寺        ２０３　雲雀鳴く野道のつつきや水前寺	大正５年４月１８日	熊本・水前寺
０６５	植木木葉等を過ぎて 　　　　　風光る山又山の古戦場　        ２０７　風光る植木木葉や古戦場	大正５年４月１９日	熊本・木葉

０６６	風光る植木木葉の古戦場	大正５年４月１９日	熊本・木葉
０６７	筑紫海岸 　　　　雲にあらず温泉岳の薄霞	大正５年４月１９日	佐賀・筑紫海岸
０６８	肥後より筑後に入る 　　　　　肥後筑後菜種の花や風かほる 　    ２０６　肥後筑後菜種の花や風匂ふ	大正５年４月１９日	佐賀
０６９	むつ五郎魚 　　　　　花見にハ勿来に帰れむつ五郎     ２０８　花見には勿来に帰れむつ五郎	大正５年４月１９日	佐賀
０７０	途　上　 　　　　　景物ハ窓の梅かや春衣商     ２０９　景物は窓の梅なれ春衣商	大正５年４月２０日	佐賀
０７１	江藤ノ墓ニ 　　　　長の旅始めて戻るや春の家	大正５年４月２０日	佐賀・江藤新平墓

０７２	長の旅戻れハ里ハ春霞      ２１０　咲きかねて木陰に古りし桜かな	大正５年４月２０日	佐賀・江藤新平墓
０７３	長の旅帰るや里の春霞	大正５年４月２０日	佐賀・江藤新平墓
０７４	長の旅帰れハ里の春霞	大正５年４月２０日	佐賀・江藤新平墓
０７５	唐津領巾振り山 　　　　　松浦潟ひれふり山の春の雨      ２１１　小雨ふるひれふり山の春寂し	大正５年４月２１日	佐賀・唐津
０７６	鯨を卜る 　　　　春網や鯛を取らずに鯨魚	大正５年４月２１日	佐賀・唐津湾
０７７	鯨とり舟中をとる春の海	大正５年４月２１日	佐賀・唐津湾
０７８	ひれふり山 　　　　細雨霏々ひれふり山の春深し	大正５年４月２１日	佐賀・唐津湾
０７９	鯨　　　　　　　 　　　　　桜鯛とり損ひし手柄かな　     ２１２　桜鯛取り損ひし手柄かな	大正５年４月２１日	佐賀・唐津湾

０８０	路傍の花　 　　　　雨つゝき旅路ハ花の行悩み	大正５年４月２２日	佐世保・大村間
０８１	大村湾 　　　　雨に消ゆ大村湾の春景色	大正５年４月２２日	大村湾
０８２	雨中の旅 　　　　旅の雨野山も花も雲に入る          ２１４　雨に濡れて人待つ宵の春寒し	大正５年４月２２日	大村・長崎間
０８３	朝　晴 　　　　雨はれて重衣ぬけり春の宿            ２１８　雨晴れて衣換へせり春の宿	大正５年４月２３日	長崎
０８４ 　　抹消	諏訪神社参拝 　　　　おろかみてまかれ葉下に萩の餅	大正５年４月２３日	長崎
０８５	長崎来遊 　　　　船遊ひ町家も山も指顧の間       ２１７　春の海岸と岸の話かな	大正５年４月２３日	長崎

０８６	諏訪神社ニテベタ餅 　　　　べた餅の馳走になりて花見哉      ２１５　名物の餅に茶を飲む櫻かな	大正５年４月２３日	長崎
０８７	船遊ひ花も緑りも指顧の間	大正５年４月２３日	長崎・長崎港
０８８	町旗群集 　　　　町々の幟勇まし春の旅	大正５年４月２４日	長崎・長崎駅
０８９	大村湾 　　　　風光る大村湾の真珠貝     ２２０　海の幸浦人語る日永かな	大正５年４月２４日	大村湾
０９０	筑豊途上 　　　　炭車又炭車野路の春　 　 　　　　０１４と同じ題	大正５年４月２４日 ２６日か    ？	筑豊
０９１	春の旅町の幟の二百旒        ２１９　春の旅送る町旗や二百旒	大正５年４月２４日	長崎

０９２	博多仁和賀 　　　　頤をとり留めかねし春の宵	大正５年４月２５日	福岡
０９３	頤を危く留めし春の宴	大正５年４月２５日	福岡
０９４	春めくや酒宴なかばの仁和賀ぶり     ２２２　春めくや酒宴なかばの仁和加ぶり	大正５年４月２５日	福岡
０９５	福岡や隈なく通る春の風         ２２３　里に家殖て童謡うららかに	大正５年４月２６日	福岡・戸畑間
０９６	筑豊は来る度ごとに春の色	大正５年４月２６日	戸畑
０９７	安川氏宅及学校 　　　　暮れかねて山又山の眺かな         ２２４　暮かゝる山又山の霞かな	大正５年４月２６日	戸畑

０９８	筑豊は年中春の景色哉	大正５年４月２６日	戸畑
０９９	筑豊や来る度ことの春の色	大正５年４月２６日	戸畑
１００	長旅の疲忘れて春の家	大正５年４月２６日	戸畑
１０１	安川氏宅 　　　　なかばるや汽笛の音遠き朝霞	大正５年４月２７日	戸畑
１０２ 　　抹消	里遠くあなた此方も雲雀鳴く	大正５年４月２７日	戸畑
１０３	旅つかれ雲雀の声に眼さめけり     ２２５　雲雀鳴く声に眼ざめし別墅かな	大正５年４月２７日	戸畑

１０４	延命寺　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　延命寺ちりかけし古戦場     ２２６　蝶飛んで座敷に入るや延命寺	大正５年４月２７日	小倉
１０５	水温む瀬戸に往き来の白帆哉       ２２７　水温む瀬戸に往き来の白帆かな	大正５年４月２７日	小倉
１０６	馬関ニ渡る 　　　　二十日目に渡りて帰る春の瀬戸	大正５年４月２７日	関門海峡
１０７	二十日目に又渡りけり春の瀬戸	大正５年４月２７日	関門海峡
１０８	陸奥伯に詣て 　　　　暮かねし夕陽ケ岡に桜ちる      ２３０　暮かねし夕陽が岡の落花かな	大正５年４月２８日	大阪・夕陽が岡
１０９	桜散る夕陽ケ岡や暮かねて	大正５年４月２８日	大阪・夕陽が岡

１１０	大阪ニ入りて 　　　　大阪や霞匂ふと人問はん	大正５年４月２８日	大阪
１１１	中島公園　 　　　　黒銅像なれと柳ハみとり哉	大正５年４月２８日	大阪・中島公園
１１２	筑港見物 　　　　乗り出して白帆にまじる春の海     ２３１　浪花津に咲く此花や待遠き	大正５年４月２９日	大阪・大阪湾
１１３	浜　寺 　　　　音に聞く高師の濱や若みとり     ２３２－１　音に聞く高師の濱や若みどり 　　２３２－２　波静に高師の濱や若みどり	大正５年４月２９日	大阪・堺
１１４	乗り出せハ白帆取巻く春の海	大正５年４月２９日	大阪・大阪湾
１１５	乗出せハ白帆白帆の春の海	大正５年４月２９日	大阪・大阪湾

１１６ 　　抹消	菜種の花 　　　　菜の花や往きに見しか帰りにも	大正５年４月３０日	大阪東京間
１１７	山ノ桜 　　　　山緑り中に一樹の花の色	大正５年４月３０日	大阪東京間
１１８	菜の花や往く先き先きの旅のつれ         ２３３　菜の花や往く先きざきの旅のつれ	大正５年４月３０日	大阪東京間
１１９	終日の雨に仮寝の日永哉	大正５年４月３０日	大阪東京間
１２０	春雨や何の風情ぞ警固の士	大正５年４月３０日	大阪東京間
１２１	春雨や濡るる警固のいたわしさ	大正５年４月３０日	大阪・東京間

１２２	春雨や警固の士にハ無情哉	大正５年４月３０日	大阪・東京間
１２３	春雨に濡るる帆桁に鳥四羽     ２３４　春雨に鳥のぬるゝ帆桁かな	大正５年４月３０日	大阪・東京間
１２４	春雨や警固の士にはよくてふれ	大正５年４月３０日	大阪・東京間
１２５	帰　京 　　　　行春を追ふて帰る草の庵         ２３５　行春を追ふて帰るや草の庵	大正５年４月３０日	東京・自宅

        
以上で、「九州旅行」にかかわる俳句の記載は終っている。総て時系列に記載されている。
青字表記の句は、「句帖」と「筑紫紀行」に掲載されている。
ここまでは、「筑紫紀行」に載っている俳句である。


これ以下は、「関係文書」では、

他に短歌「折り取りて母の御墓に手向けせん父のかたみの花の一もと」や制作時不明の俳句三十余句を記すが、すべて省略する

として削除されている。

したがって、この資料以外には紹介されていない。

制作された時と所は、「句集」や「紀行」などをもとに編者が推定したものである。

帰宅した後に記載したものである。

時系列には必ずしもなっていない。

１２６	折り取りて母の御墓に手向けせん 　　　　　　　　父のかたみの花の一もと    短歌３５ 　　　　　折り取りて母の御墓に手向けてん 　　　　　　　　　　　　　父のかたみの花の一もと	大正５年５月１０日	盛岡
１２７	葉桜に花の昔しや偲ばるる	大正５年５月１０日	盛岡
１２８	雲に入るたこのうなりや里の暮 　　１３８　雲に入る凧のうなりや里の春	大正５年５月	腰越
１２９	吹流す鯉に賑ふ袖カ浦 　　１３７　鯉幟建て祝ふや海士が家	大正５年５月	腰越

１３０	二度の春五月半の桃桜	大正５年５月	腰越
１３１	永き日を雨におりて侘居	大正５年５月	腰越
１３２	旧草蘆遺愛の桜一とかヽひ	大正５年５月１０日	盛岡
１３３	鯉躍る池に桜の水鏡 　　　　　　１３７と同じ	大正５年５月１０日	盛岡
１３４	目白鳴く月半輪の庭のくれ	大正５年５月	腰越
１３５	夜に住む目白や今は何才月	大正５年５月	腰越

１３６	門のわき遺愛の桜一とかゝひ 　　　　　１３２と関連	大正５年５月１０日	盛岡
１３７	鯉躍る池の桜の水鏡 　　　　　１３３と同じ	大正５年５月１０日	盛岡
１３８	大杉の下に小鳥の時得顔	大正５年５月	腰越
１３９	指図して木を植え直す日永哉        １３９　指図して木を植ゑ直す日永かな	大正５年５月	腰越
１４０	小雨ふるひれふり山の春寂し      ２１１　小雨ふるひれふり山の春寂し	大正５年４月２１日	唐津
１４１	青葉かげ筧近くに小鳥鳴く          １４０　若葉かげ筧近くに小鳥鳴く	大正５年夏	腰越

１４２	秋雨の跡に女生徒田甫道	大正５年１０月１４日	車中 上野・仙台間
１４３	秋晴に帆足ゆたけき千賀の浦	大正５年１０月１６日	塩釜
１４４	秋晴れに家並の衣眺めけり	大正５年１０月１４日	車中
１４５ 　　抹消	むら雀案山子にとまる刈田かな	大正５年１０月１４日	車中
１４６	刈り跡の案山子にとまる稲雀	大正５年１０月１４日	車中
１４７	秋風の吹く白川や宵の旅     ２６０－１　秋風の吹く白河や宵の旅　　　 　 ２６０－２　秋風や白河以北宵の旅	大正５年１０月１４日	福島・白河

１４８	ひよ鳥や俄に西に飛ひにけり	大正５年１０月１８日	盛岡
１４９	秋雨に上る墓石のかたつむり	大正５年１０月１８日	盛岡
１５０	砂利取の跡にも稲のみのり哉             ２６７　砂利取りし跡に稲穂のみのりかな	大正５年９月４日	新潟・信濃川河口
１５１	蜻蛉も此橋渡り向岸　　　　　　　　　      ２６８　長橋や光わたらぬ三日の月	大正５年９月４日	新潟・万代橋
１５２	久振りの雨に涼しや都入り	大正４年８月２３日 　？	京都
１５３	夕立は白河越て黒田原	大正５年１０月１４日	福島・郡山

１５４	初秋や死損ひし蝉の声     ２５４　初秋や死損ひし蝉の声	大正５年８月末	盛岡
１５５	蓮池の花匂けり今も亦 　 ２６５　　　白山公園に遊びたるに蓮の花 　　　　　　　今猶ほ盛りなれば 　　　　秋晴れの木の間に蓮の匂ひけり	大正５年９月２日	新潟・白山公園
１５６	旅立つや岩手ノ里の朝霧に      ２６２　霧深く旅立つ朝の灯かな	大正５年９月１日	盛岡・介寿荘
１５７	旅立ちや鳥もねくらの朝霧に　     ２６２　霧深く旅立つ朝の灯かな	大正５年９月１日	盛岡・開運橋
１５８	初秋や昔噺しの寺まいり	大正５年９月２日	新潟
１５９	初秋や三日月うつる信の川	大正５年９月２日	新潟・信濃川

１６０	やかて来る船待遠き秋の月　 　　２６４　やがて来る船待遠し秋の川	大正５年９月２日	新潟・信濃川
１６１	越後女ハ雪の肌とて避暑の客	大正５年９月２日	新潟・宿
１６２	蜻蛉も橋をたよりに向岸          ２６８　長橋や光わたらぬ三日の月	大正５年９月４日	新潟・万代橋

     
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　完